
死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。
名言について
最初の作品集『晩年』の巻頭に収められた『葉』の冒頭です。死を考えていた「私」が、夏に着る着物をもら ったという小さな出来事をきっかけに、夏まで生きてみようと思い直します。ささやかなことが人を生につなぎ止めることを描いた一節です。
太宰治について

太宰治(1909-1948)は青森県北津軽郡金木村(現・五所川原市)出身の小説家で、本名は津島修治です。1933年に初めて太宰治の筆名で作品を発表し、『富嶽百景』『走れメロス』『津軽』など作風の幅広い作品を書き続けました。戦後は『斜陽』がベストセラーとなり、坂口安吾らとともに無頼派と呼ばれました。1948年、『人間失格』を書き上げて間もなく、東京の玉川上水で亡くなりました。
